【しばたのイチジク】

新発田市五十公野地区では、明治期から日本イチジク「蓬莱柿(ほうらいし)」の栽培が行われ、県内でも有数の産地として知られる。
最盛期にくらべて減っているものの、五十公野果樹組合には現在も40軒ほどのいちじく栽培農家が加入している。

果樹栽培の父、白勢和一郎 
日本にイチジクが伝わったのは、江戸時代。享保年間頃から五十公野村(現・五十公野地区)でも、住民が庭などでイチジクの木を育てていたのではないかと伝えられる。
 1873(明治6)年、新発田の豪商、白勢家の10代目当主、白勢成熙が新発田町清水谷浦(現・新発田市大栄町)でリンゴの栽培を始めたという記録が残る。成熙の息子である白勢和一郎は、イギリスやフランスに留学して果樹栽培を学び、果物の苗木を持ち帰った。帰国後、地元の五十公野村山王に果樹園を開設し、リンゴや洋ナシ、サクランボなどの栽培を始めたといわれる。日本イチジクは在来種であり、和一郎が苗を持ち帰ったわけではないが、果物の木を植えても家族で食べるだけだった時代に、おいしい果物を栽培して販売し、利益を得るという発想は、農民たちの意識を変え、イチジクの栽培が広まるきっかけの一つともなったようだ。

新発田の特産「蓬莱柿」


 五十公野の山王地区でサクランボやイチジクを栽培するアサカ農園の淺香隆さんは、「山王地区は果樹栽培に適した土地柄なんですよ」と話す。山王地区には、かつて加治川の支流である新発田川と佐々木川が流れていて、洪水も頻繁に起こり、そのたびに川の両岸には砂や泥が堆積していった。そうして形成された川岸の高台が、現在、畑や果樹園に利用されているのだという。「自然堤防と呼ばれる地形で、水はけが良く果物栽培に適しているんですよ」 
 父の幸作さんとともに農園を営む隆さん。 現在は100本弱の蓬莱柿を栽培している。「終戦後、稲作も機械化が進み、時間に余裕が生まれてイチジクなどの栽培が盛んになった。日東缶詰(現・日東アリマン)でイチジクの缶詰を製造していた頃は、五十公野の農家のほとんどがイチジクを作っていたものです」と幸作さんも昔を振り返る。「五十公野の蓬莱柿は、新発田が誇る特産品の一つ。味はどこにも負けません。大切に守り続けて、後世に伝えていきたいですね」 

西洋イチジク栽培への挑戦も

新発田市菅谷地区にある高橋農園では、養液を使った西洋イチジクのコンテナ栽培を試験的に始めている。農園の高橋健太さんは、「まだあまり知られていない西洋イチジクの美味しさをもっと知ってほしい」と、フランス原産の「ビオレ・ソリエス」と「バナーネ」、ギリシャ原産の 「ロードス」の3種類の西洋イチジクの苗をコンテナに植え、ハウスの中で 培養液を使って栽培する。「西洋イチジクは、ほど良い甘みとさっぱりした風味が特徴。生でそのまま食べるのがいちばん美味しいですね」 培養液を使ったコンテナ栽培は、挿し木をした年から収穫することが可能になり、株枯病の発生やカミキリムシによる被害も抑えられるのだという。「初めての試みなのでわからないことも多く、試行錯誤を重ねています。養液の濃度があまり高いと甘みが少なくなってしまうんですよ」と苦労を語る。今年は125コンテナ、 およそ370本を栽培し、市内のスーパーや直売所での販売も予定している。 

 50年前にはイチジク缶詰の生産も  

1961(昭和36)年、山形県から日東缶詰(現・日東アリマン)が新発田市五十公野地区に進出。地元の蓬莱柿を使ってイチジクのシロップ漬け缶詰の生産を始めた。日東アリマンの吉原堅道会長は、「五十公野に工場を建てたのは、すぐれたサクランボ産地として知られていたため。ここでサクランボの缶詰を生産する予定だったのですが、折悪しく、第2室戸台風で桜の木はすべて倒されてダメになってしまい、途方に暮れるなか、地元で採れるイチジクを使って缶詰を作ってみたのが始まりでした」と話す。 

 イチジクの缶詰は需要が多く、特に関西地方でよく売れたのだという。 日東缶詰でイチジクの缶詰を生産していたのは、1962(昭和37)年から1967 (昭和42)年までの5年ほどで、その後は 「とり釜めしの素」をはじめとするレトルト食品などの生産に舵を切った。生産農家は直接市場やスーパーに出荷するようになり、市内の多くの菓子店で蓬莱柿を使った和洋菓子も製造・販売されるなど、蓬莱柿は今も新発田の人々に愛され続けている。

新発田五十公野地区の生産者

イチジク豆知識

世界最古の果物といわれるイチジク
ギリシャ神話や旧約聖書にも登場するイチジクは、「世界最古のフルーツ」といわれています。 乾燥させた果実や葉は生薬として使われ、古代ローマでは「不老長寿の果物」とも呼ばれました。 

栄養もたっぷり!
たくさんの栄養がギュッと凝縮されているイチジク。特に、水溶性の食物繊維、ペクチンを多く含み、便秘に効果的。また、カルシウムや鉄分など血や骨の素となるミネラルやカリウムも豊富。フィシンなどの酵素のはたらきで、食後に食べると消化を促進し、飲酒後に食べると二日酔いになりにくいとも言われています。